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気付きや目覚めを目指して聴く

気付きと目覚めを促す聴き方

話し手の気付きと目覚めを促す聴き方とは、どんな聴き方でしょうか?その聴き方にはどんなメリットがあるのでしょうか?あなたの話の聴き方を変えるちょっとしたコツをまとめました。

話を聴く目的と対処は様々です。話し手の体験した出来事や悩み苦しみ悲しみの度合いによっては、悠長に構えてはいられないものもあります。事件性のある体験についてはとりわけそう言えます。

解決に向けて即座に行動するか、自力での支援が難しければ、しかるべき立場・経験・力を有する組織や個人に繋がねばならないでしょう。

しかし総ての出来事や悩みや相談内容がそうとは限りません。適宜、柔軟に対応するほうが賢明なこともしばしばです。

早々に慰めたり、質問攻めにしたり、アドバイスしたり…。何かに駆り立てられているかような反応は控え、相談者の外面的な体験は何で、それによって引き起こされた内面的な体験はどうなのか、識別を目指して聴きましょう。

話を聴く際の「里程標」を定めることも大切です。事の解決はゴールで里程標ではありません。一気にゴールを目指すと、話す方も聴く方も大きなストレスになりますので、まずは里程標を定めましょう。

では、聴き手は何を目指して段階的に傾聴できるでしょうか?この投稿ではまず、その「里程標」について書きます。

気付きを目指して聴く

誰が何に気付くのか

話し手自身が、自分の体験した出来事の意味(意義)に気付くのです。聴き手が体験の意味付けをするのではありません。話し手自身が、その意味(意義)に気付くのです。

それは、今後同様の、または似通った、あるいは異種の外的体験に遭遇した際の、対処力を習得する(強化する)第一歩です。

聴き手に求められるのは、話し手の痛みや悲しみや悔しさを力まずに共有することです。また、話し手に見て取ったことを力みなく話し手に伝えることです。

例外として、自らに懲罰的な意味付けをして、納得に至ろうとする方がいるかもしれません。そのような時には優しく率直に聴き手としての考えを表明できます。

各種ハラスメント、DV,性被害等の被害者の方々の中にそのような傾向を示される方々がおられたなら、聴き手には識別力が必要です。しかるべき機関や専門家のアドバイスを受けるよう勧めることが必要なことがあります。
私たちキャリアカウンセラーにも「リファー」というルールがあり、領域の異なるご相談の場合は、しかるべき立場・資格等を有する専門家や専門機関に時を移さず委ねます。

心地よい目覚めを目指して聴く

こんな経験はありませんか。朝、かすかに聞こえる物音に気付く。しばらくするとさえずる声も聞こえ始め、屋根に小鳥が止まっていることにも気付き、やがて目が覚める。

こんな目覚めは、目覚まし時計に起こされるより心地よいですよね。同じように聴き手の叱咤激励によって目が覚めるより、段階的な気付きを経て自ら目が覚める体験は心地よいものです。

話し手が自らの内的な体験を通して得る気付きは、その体験を噛みしめる毎にその数を増し、やがて「目覚め」に至ります。

それまでの間、聴き手は、折々に頷いたり、尋ねたり、同意したり、優しく自分の感想を言い述べたりしながら、温かく寄り添い続けます。やがて、目覚めの瞬間にも立ち会うことになります。

私自身がこれまで度々立ち会ってきた中から、一つの事例をご紹介します。

ある中年男性の就職支援にて

その方は有能な職業人で、再就職を目指して職業訓練を受講しておられました。しかし、就職活動がなかなか実りません。書類審査は難なく通過するのですが、毎回、面接で残念な結果に終わってしまいます。

支援担当は私ではなかったのですが、度々私のブースに立ち寄っては応募先企業や面接官へのご意見を述べます。ご自身も面接官を務めた経験があり、至極ごもっともなご指摘でした。

ひと月ほど経って、再度面接に臨むことになった折、私に支援を求めてこられたので、ある提案をしました。その方を面接官役にし、私が応募者役となって模擬面接をするのです。

長年、面接官を務めてこられた自信の表れか、鋭い質問をいくつも投げてこられました。私はすべての質問にスマートには答えられませんので、分からないことはその旨正直に申し上げたり、至らぬ点はお詫びしたりしながら30分ほどが経過しました。

その頃から、面接官役の彼の様子が変わっていき、何と泣き出してしまわれたのです。それには驚きましたが、その後、彼が一言「目が覚めました。」とおっしゃったのです。

おそらく、度重なる不採用という外的体験と共に、その体験の意味を内省しておられたのだと思います。その上での模擬面接から、彼なりの答えが見つかったのでしょう。

その数日後、内定をもらったと嬉しそうにご報告くださいました。この出来事からは、私も沢山の気づきを得ました。

聴くことの
奥深さ

話を聴くことは深遠な行為です。聴き手は黙って聴き耳を立てながらも、様々なメッセージを話し手に送り、話し手は話しながらもそのメッセージを受け取り、あれこれと思いを巡らし、答えを導き出していくのです。

冒頭の画像をご覧ください。右側の話し手は俯いていますが、決して失意落胆しているわけではありません。ご自分の体験の意味を探り、気付きを得ながら、感情的・精神的な治癒に向っているのです。

こうした仕組みを洞察できれば、今後の「聴く」という行為には深みや広がりが出てくるのではないでしょうか?私たちすべてが所謂カウンセラーになるわけではありませんが、「カウンセリングマインド」は誰もが身に着けることのできる心構えなのです。

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